近藤典行監督のブログより
『その男、狂人につき』まさに映画を撮る人間になろうと決めた頃からの古い友人で、友人というよりは戦友か、でも戦友というのは味方というより好敵手という意味においての、まぁ10年も前からの、今の今までずっとその動向が気になってしょうがない迷惑な男がいて、一時期はバンドにうつつを抜かしていたその男は東京を離れてからもせっせと映画を製作を続けていて、気があちこちに飛び回って仕方ない小心の私を脅かし続けている。「センス」なんて曖昧で抽象的な言い草を忌み嫌う私は、だからひたすら映画を見まくって批評にあたって、己の現場でそのバタ臭い努力を実践しながら、真の映画とは何かを模索してきたつもりだが、「センス」の塊のようなその煮ても焼いてもチンしても食えない男の映画は、前を行く映っては消えていく幻影のように私を引っ張っていく。10年以上も前に実習の作品で、同級生の口から「あいつにカメラを持たせておけば勝手に面白いものを撮ってくる」と呟かせたその男、山口洋平は最近ではプロデューサー業に専念し、灰谷煙平というさらに食えなさそうな男に監督業を譲って、現在新作『ぺっちゃん』を編集中だという。
前作『FIVE POCKETS』(残念ながら私は未見)から新作『ぺっちゃん』というタイトルのはずし方を見ただけでも食えなささとセンスのよさを誇示しているとしか思えないし、おそらくそんなことは知ったこっちゃないと笑顔で応えるだろう、その無意識の有り様がこの男の凄みでもある。あえて「この男」としたのは、あくまでも私の根拠の無い憶測に過ぎぬが、山口洋平と灰谷煙平は同一人物ではないか、そう睨んでいる、いや間違いない。そして、彼の7本目の最新作『ぺっちゃん』と我がちりプロ7本目の新作が10年の時を越えてほぼ同時に完成することになるだろう、この事実は何を表して、何を齎すことになるだろう、興奮で震えを抑えきれない。山口洋平、灰谷煙平とも縁の深い、水町豪氏が主催するアロハ工房の10本目となる新作舞台も合わせると、ずっとそれぞれが走ってきた道の現在の位置がはっきりするのではないか。私自身が何よりもそれを知りたい。もちろん、我々の新作だってほんと手強いから用心しておいた方がよい、なんて余計な一言を口走っておく。んで、最後にこの文章はある作業を中断して、勢いに任せて書いたことを記しておきたい。その作業とは、エンドクレジットのためにキャスト、スタッフ、協力して頂いた方の名を、その尽力とともに思い出しながらひとつひとつ並べていく、締め括りの儀式である。そこに刻印された名前が含み持つ多重の人生が、我が新作をより強靭なものにしている。
[2回]